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「伊豆の冬の夜って、そんなに寒くないでしょ」

4年前、そう思ってました。

完全に間違いでした。

伊豆って、なんとなく暖かいイメージありませんか。おれもそうでした。海沿いだし、関東よりは南だし、椿が咲く土地だし。テレビで見る伊豆はいつも陽射しがあって、お土産屋さんの前でみかんが積んである。あの絵面が頭にあると、冬でも夜まで温いような気がしてくる。けど実際の真冬の夜、車の中で寝るとなると、その「なんとなく」は一切あてになりませんでした。日中の暖かさと、夜中2時の車内の冷え込みは、まったく別の話だったんです。


当日の装備

その日の装備がこれです。

  • 夏用シュラフ(快適温度15℃表示)
  • 毛布1枚
  • ハイゼットカーゴの荷室に敷いた薄いマット

1月の伊豆半島。夜間気温は4℃。

「まぁ車内だし、毛布があれば大丈夫でしょ」というのが当時の判断でした。

今振り返ると、この装備の薄さが我ながら情けない。夏用シュラフは、当時アジングの遠征用にとりあえず買った安いやつで、夏場に車中で仮眠する分には何も問題がなかった。だから冬もこれでいけると思い込んでいたんです。毛布だって、自宅で使ってるやつを「念のため」と一枚だけ放り込んだ程度。マットも5cmもない薄いウレタンで、荷室の鉄板の冷たさが背中にじわじわ伝わってくる代物でした。

そもそも「冬の車中泊は車の断熱で何とかなる」と、頭のどこかで思っていたんだと思います。エンジン切った車の鉄の箱は、外気とほぼ同じ温度まで一気に下がる。むしろ放射冷却で外より冷えることもある。そういう基本的なことを、おれは経験する前は本気で理解していませんでした。「室内」と「車内」を同じ感覚で考えていた。これが一晩かけて全身で思い知らされる、最初のボタンの掛け違いだったわけです。


夜中2時の記憶

午後9時に荷室に潜り込んで、毛布を被って目をつぶった。

潜り込んだ直後は、正直「いけるじゃん」と思ったんです。シュラフの中の空気が体温で温まってきて、毛布も足して、最初の30分くらいは普通に眠気がきていた。あの油断が良くなかった。

0時ごろ、寒くて目が覚めた。

足の裏からじわっと冷たさが上がってきて、それが膝、腰へと這い上がってくる感覚。背中はマットの下の鉄板に熱を吸われて、寝返りを打つたびに、まだ温まっていない冷えた生地に肌が触れてヒヤッとする。靴下を2枚重ねにして、着ていたフリースのジップを締めて、また横になった。

1時ごろ、また目が覚めた。手足の指先が痛い。寒さって、ある段階を越えると「冷たい」じゃなくて「痛い」になるんですよね。指先がジンジンして、感覚が遠くなる。手をこすり合わせても、息を吹きかけても、根本的には何も変わらない。シュラフ自体が冷気を遮ってくれないから、いくら中で丸くなっても、熱が逃げる穴を塞げていないんです。

以降、一時間おきに目が覚め続けました。窓の外はしんと静まって、フロントガラスの内側がうっすら白く曇っていく。たまに遠くで波の音がするだけで、自分の歯がカチカチ鳴る音がやけに大きく聞こえる。スマホの時計を見ては「まだ1時間しか経ってない」と絶望する、その繰り返しでした。

夜中2時を過ぎたころ、「この寒さの中で6時まで過ごすのは不可能だ」と判断してエンジンをかけた。

暖房を30分動かして車内を温めて、また消した。消したら15分で寒くなった。この「つけたり消したり」が一番こたえました。温まると安心して眠気がくる、けど消すとすぐ冷える、寒くて起きる、またエンジンをかける。アイドリングで燃料を垂れ流している後ろめたさもあるし、何より眠りのリズムがズタズタになる。深く眠れないまま、浅いまどろみと覚醒を行ったり来たりするだけ。

朝まずめのアジングどころじゃなかった。本当はこの遠征、夜明けの常夜灯まわりでアジを狙うのが本命だったんです。それなのに、夜明けを車内で縮こまりながら待って、ロッドに触れることもなく、そのまま早々に帰りました。あれだけ楽しみにしていた釣りを、自分の準備不足だけで丸ごと潰した。釣れなかった悔しさより、その情けなさの方がずっと尾を引きました。


何が間違いだったか

シンプルな話で、寝袋の快適温度の意味を理解していなかった。

「快適温度15℃」というのは、「15℃の環境で快適に眠れる」という意味です。1月の伊豆の車内気温が4℃なら、夏用シュラフでは11℃も不足している計算です。

ここを、おれは完全に勘違いしていました。タグに「15℃」と書いてあるのを見て、なんとなく「15℃くらいまでは耐えられる寝袋」と読んでいたんです。実際は逆で、15℃より下がったらもう快適ではなくなる、という意味だった。つまり数字は「ここまでなら平気」の下限じゃなくて、「これより寒いと無理が出始める」の境界線なんですよね。この読み違いひとつで、11℃も見積もりを誤っていた。

さらに、快適温度は「適切な服装で」という前提もある。薄着で潜り込むと、もっと条件が悪くなります。メーカーが温度を測るときは、ちゃんとアンダーウェアを着てマットも敷いた状態が基準になっている。おれみたいにフリース一枚で薄いマットだと、表示の温度よりさらに不利な条件で寝ていることになる。同じ「15℃」の寝袋でも、使う人の装備次第で体感は何度もズレるわけです。

もうひとつ言うなら、寒さの感じ方には個人差もあります。おれは普段から手足が冷えやすいタイプで、人より寒がり。だから「カタログの数字ギリギリ」で選ぶこと自体が、おれにとっては博打だったんだと思います。寝具は、想定より一段か二段、余裕を持たせた方が結局はよく眠れる。これも後から腑に落ちた話です。

「真冬の車中泊には、快適温度が0℃前後以下の寝袋が必要」——これが、その夜に高い授業料を払って学んだことです。安物買いで一晩を棒に振り、本命の釣りまで潰したことを思えば、ずいぶん高い授業料でした。


翌月、モンベル ダウンハガー650 #1 を買った

伊豆の失敗から1ヶ月後、モンベルのダウンハガー650 #1を買いました。

正直、すぐに買いに走ったわけじゃないんです。伊豆から帰ってしばらくは「もう真冬の車中泊なんかやめておこう」と拗ねていた。でも、結局おれは冬の朝まずめのアジングが好きで、あの時間帯に海辺にいたいと思ってしまう。だったら寝るところをちゃんとするしかない、と腹をくくって、店の寝袋コーナーで散々悩んだ末に手に取ったのがこれでした。

快適温度マイナス7℃。価格は当時3万円台。「高い」と思ったけど、あの伊豆の夜を思い出したら即決でした。安いシュラフで一晩苦しんで、本命の釣りまで丸ごと潰したあの損失に比べたら、3万円で二度とあれを味わわなくて済むなら安いもんだ——そう考えたら、財布を開く手に迷いがなくなりました。値段で選ぶか、もう二度と眠れない夜を過ごさないために選ぶか。おれは後者を選んだわけです。

4年前に買ってから今も現役で使ってます。

冬の車中泊でこれを使うようになってから、寒くて眠れないことが一度もない。初めてこれを使った夜の、足先までじんわり温かいまま朝を迎えた感覚は今でも覚えています。あんなに苦しんだ冷えが、寝袋ひとつでこうも変わるのかと拍子抜けしたくらいでした。ダウンの保温力も、4年使った今でもへたった感じがしない。圧縮袋から出してしばらく置くとふわっと膨らんで、買った当初とほとんど変わらない。伊豆の夜に何が起きていたか、今になってよくわかります。あれは寒さのせいじゃなくて、寒さに備えなかったおれのせいだったんです。


寝袋を選ぶ前に確認すること

使う季節と想定最低気温を決める

「夏しか使わない」なら夏用(快適温度10〜15℃)で十分。でも冬に使うなら、マイナス温度対応が必要です。

おれが伊豆でやらかしたのは、まさにこの「いつ・どこで使うか」を曖昧にしたまま、夏用一本でなんとかしようとしたことでした。寝袋を一個で全シーズン賄おうとすると、たいてい冬に泣きを見ます。夏に冬用は暑すぎて開けて寝ることになるだけで済むけど、冬に夏用だと一晩中震えるしかない。失敗のダメージが全然違うんです。だから一本目に冬を見据えた寝袋を選ぶのは、ケチらない方がいい判断だと今は思っています。

冬の車中泊での想定最低気温の目安:

  • 関東平野(1月):0〜5℃
  • 伊豆・南房総(1月):2〜8℃
  • 東北・山間部(1月):マイナス10℃以下もある

ここで気をつけたいのは、天気予報の「最低気温」をそのまま当てにしないことです。予報は地上の百葉箱の数字で、夜明け前にもう一段下がることがあるし、海風が吹けば体感はさらに低い。エンジンを切った車内は外気とほぼ同じところまで落ちるので、「予報よりもう2〜3℃寒いかもしれない」と低めに見ておくくらいでちょうどいい。おれは伊豆で、予報の数字を楽観的に読んだことも失敗のひとつでした。

快適に眠れる目安は「想定最低気温より10℃低い快適温度の寝袋」を選ぶこと。なぜ10℃も余裕を取るかというと、さっき書いたとおり、メーカー表示は理想的な装備・体格を前提にしているし、寒さの感じ方には個人差があるから。ギリギリで合わせると、ちょっとした条件のズレで一気に「眠れない側」へ転びます。余裕を取った寝袋なら、想定より冷えた夜でもファスナーを少し開けて温度調整できる。余裕は「持て余す」んじゃなくて「保険になる」と考えてください。

ダウンとシンサレートの違い

  • ダウン(羽毛):保温力が高く軽くてコンパクト。濡れると保温力が落ちるので雨・湿気対策が必要。モンベル、ナンガが有名。
  • 化繊(シンサレート等):濡れても保温力が落ちにくい。重くなりがち。価格はダウンより安め。

この二択で迷う人は多いと思います。おれの考えを正直に言うと、どっちが正解という話じゃなくて、自分の使い方に合う方を選ぶのが正解です。ダウンは同じ暖かさでも袋が小さくまとまるから、軽バンの荷室で他の道具と場所を取り合う車中泊だと、このコンパクトさが地味に効いてくる。畳んだときに拳より少し大きいくらいに収まるので、片付けも楽です。

一方で、ダウンの弱点は水に弱いこと。濡れると羽毛がへばりついて、空気の層が潰れて、保温力がガクッと落ちます。テント泊で雨に降られたり、結露でびしょびしょになったりするシーンが多いなら、濡れに強い化繊の方が安心という考え方も全然アリです。重くてかさばるけど、価格も抑えめだし、扱いがラフでいい。

車中泊なら濡れるリスクが低いので、ダウンがコスパ面で優位です。屋根のある車内なら雨は直接かからないし、結露さえ気をつければダウンが本来の保温力を発揮しやすい。だからおれは車中泊メインの自分の使い方を考えて、ダウンを選びました。逆に、これからガッツリ冬山テント泊もやるという人なら、また答えは変わってくると思います。「自分はどこで寝ることが多いか」を先に決めると、この選択は意外とすんなり片付きます。


Q&A よくある質問

Q. 夏用の寝袋に毛布を足せば冬でも使えますか?

A. ある程度は補えますが、快適温度が10℃以下になると限界があります。毛布1枚では最大2〜3℃の補完が限界。真冬の車中泊には冬用の寝袋が必要です。おれが身をもって証明しました。

Q. 車中泊で寝袋を使うとき、服装は何がいいですか?

A. フリースや薄手のダウンジャケットを着て潜り込むと保温力が上がります。靴下も必須。ただし厚着しすぎると汗で湿気がこもるのでバランスが大事です。

Q. 冬の車中泊は結露が大変と聞きましたが?

A. そうです。呼気で車内が湿気て、窓が結露します。就寝前に換気をして、タオルを窓に挟んでおくと拭く手間が減ります。寝袋のダウンが湿気を含まないよう、寝袋カバーをかけると安心です。

Q. 車中泊の寝袋、一番おすすめは何ですか?

A. 冬用ならモンベル ダウンハガー650 #1。快適温度マイナス7℃で、4年使っても保温力は変わらない。関東・伊豆の冬を余裕でカバーします。「最初から買えばよかった」と断言できます。


あの伊豆の夜は、いま思い出しても背筋が冷えます。けど、あの一晩があったから、おれは寝袋の数字をちゃんと読むようになったし、冬の車中泊で寝るところを軽く見なくなった。失敗のおかげで、その後の冬の遠征が全部楽になったと思えば、あの夜も無駄じゃなかった。これから真冬の車中泊釣行をやろうとしている人が、おれと同じ凍える夜を過ごさずに済むなら、この記事を書いた甲斐があります。あの夜の教訓は今も活きてます。まぁ、楽しけりゃいいよね。


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